綴る

夏の終わりに

「今年は去年より暑いよ。」という話を何度も聞いた気がするこの夏。はて、本当に去年より暑いのか。とにかく毎年、異常に暑い。この異常さに慣れてしまっている感がある。

日傘を使うようになって数年。その快適さを知ってからは、夏の外出も少しは怖くなくなりました。手荷物が多くなるのは面倒ですが、刺さるような暑い光線から身体が少しでも守れると思うと気持ちが安心します。子供の頃、日傘はおばあちゃんの持ち物で、傘で涼しく感じるなんてウソだ、とすら思っていました。それに加え、日傘となった途端にレース柄などやたらとフリフリの布生地が強調されすぎている感じが好みではなかったため、自分の人生の中では絶対持たない物だろうと思っていました。

ところが、ここ何年もの恐ろしい暑さを逃れるために、始めは試しに雨傘でも使ってみるかと思い、使ってみたところ、思いのほか快適で、新しい習慣にしても良いかも、と一気に考えが変わり、子供の頃の嫌だという思い込みが外れた瞬間でもありました。今や百貨店に行けば、色とりどりの洒落たものや雨傘兼用の実用的な物もあって、これまでの日傘のイメージとは大違い。梅雨から夏にかけてはどんな傘があるかチェックするようになってしまいました。

日本の夏に活躍する物の一つに、もうひとつ団扇があります。団扇もそんなに役に立つものとはあまり思っていませんでした。昔から家にあるのはどこかの景品や広告が入ったものばかりで単なるオマケのイメージです。ところが、最近、両親の家に行った際に、どこかの工芸品的な団扇がテーブルの上に凛と佇んでいました。世に溢れているプラスチック製の広告入りの団扇とは明らかに存在感が違います。あおいでみると、柔らかい風がふんわりと顔や首を包み込み、優しい風ができるではありませんか。風流ってこういうことかな、と思い、あおぎながらぼーっとしてました。

ある日、駅の周りを歩いていたら、とあるスポーツジムの人が宣伝を目的に小さな団扇を配布していました。工芸品とは全く異なるけれど、毎朝、汗だくになりながら出勤する社員のことが頭に浮かび、もしかしたら会社に置いておけば使うかもしれないと思い、遠慮なくそのジムの広告入りプラスチック団扇をもらいました。翌日、汗だくの社員が出社した際、「団扇でも使えば?」と勧めてみると、その日から使うようになり、毎朝、朝礼の際も誰かしらが団扇で涼んでいる姿が日常の風景になりました。こんなに使われるなら、ちゃんと団扇として売っている物が欲しいな…その頃からぼんやり思い始めました。

もう夏も終わり、つい最近のこと。「紙と紙にまつわるプロダクト」をコンセプトに独特な商品を扱うお店、PAPIER LAB. さんのオンラインストアを見ていたら、見つけました。団扇!PAPIER LAB.さんのチョイスなら、何かしら惹かれるものに違いない。商品詳細を見てみると、「鹿児島にあるライフサポートセンター〈しょうぶ学園〉で障害を持つ人たちが創作活動を行う〈工房しょうぶ〉で作られている団扇。おおらかで生き生きとした表現は、涼やかな風だけでなく愉快な気分ももたらしてくれます。

これはいい、夏が完全に終わってしまう前に行かねば。急いでお店に足を運び、実物を見て触って、購入を決めました。早速、社内で使っていたジムの広告入り団扇の代わりに新しい物を置いてみると、篠原紙工のオフィスにも馴染んでしっくり良い感じです。あおいでみると、隣にいる人にも穏やかな風が回ってきて心地良いとのこと。団扇で涼んでる姿を見ていること、こちらも涼しい気分になります。

昔からある物だけど、その価値がわからなくて自分には必要ないと思い込んでいた物を、ちょっとしたことがきっかけでいざ使ってみたら実は心地よくて、心が豊かになるものと気づいた時って世界が広がった気分になります。言葉にはできないんだけど「なんかいい」という感覚は「風流」とも表現できるかもしれない。先人たちが残していった美のなごりを見つけるという楽しみが増えました。

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