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目に見えないものを差し出す

篠原紙工は江東区の大島という町工場の雰囲気も感じられる住宅街の中にあります。ビルは4階建、その建物のオーナーさんが経営する会社と篠原紙工の2社だけが入っているのですが、3フロアーを使いつくしている篠原紙工。

そのオーナさんが経営する会社の社員さんとは同じ建物にいながらも、日常の挨拶や建物管理などについての事務的な話をするくらいで、お互いの仕事のことや日常を話すことはほとんどありませんでした。
2、3年前のこと。いつも素敵な笑顔で対応してくださる事務の方と、挨拶の流れからちょっとした雑談になった時に「篠原紙工さん、会社全体が明るくなりましたよね。若い方も増えてとても活気があっていいですね。篠原紙工さんを見ていると何だかこちらがエネルギーをもらえる気がします。」と言ってくださいました。私は照れと驚きと同時に、嬉しさが溢れたのを今でも覚えています。

私が入社した時の篠原紙工は流れてきた仕事に対し、ボタンを押せばきちんと真面目に動く、もちろん、みんな一生懸命です。でも、会社全体に仕事はつまらない労働だと言わんばかりの雰囲気と、やりづらいことを変えていこうという気概が全くない、私にはそんな会社に見えました。それに加え、社長である篠原さんが持ってくる仕事はそうそう一筋縄ではいかない物ばかり。トラブル、変更、仕様をよーく確認しないと、ミスにつながる落とし穴がどこにあるか分からない案件が多かったのです。ちょうどユニークな本を作ることで注目され始めていた時期でした。当時の社員たちは社長が目指すものもよく分からず、振り回され感満杯でフラストレーションが溜まっていたようでした。
私はそのことに気づいてしまったがため、その社員と社長(=経営者)との相互理解の仲介役として、「話を聞く、話をする場を作る」というスタンスでここまで篠原紙工の内部を形作ってきました。

こういう会社の根本となること、完全にバックグラウンドのことを整えている最中って、当の本人は変化が見えにくいもの。人間関係や会社の在り方にこれが正解という絶対的なものってないし。ふとした瞬間に「この方向で良いのか?自分のやり方はいいのか?」と自分で自分を責めるような悪魔の囁きが襲いかかってくることはしょっちゅうありました。

でも、その事務の方に「会社が明るくなりましたね。」と言われて、どこで誰が見てくれて、助けてくれるか分からないって、こういうことなのか。突然舞い降りてきたギフトが私の背中を優しく押してくれた感じがしました。
物をつくることも私たちには大切だけれど、篠原紙工の存在が近くにあるだけで良いバイブレーションを差し出せているのだとしたら最高だし、そうありたいなと思います。
やっぱり自分も会社内部も、日々精進。それも楽しみながら。

明日は佐久間さんと疋田さんとのトークイベント、これまでの篠原紙工の色々もお話しできたらいいなと思います。

4月1日19:00-21:00 @ 文喫 六本木
文筆家 佐久間裕美子さん・フォトグラファー疋田千里さんとのトークイベント
https://bunkitsu.jp/event/


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