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誰かのつぶやきに製本会社がこたえます
何層にも紙が重なって高さが約2cm、糊で加工されていれば、ぺりぺりとはがせるメモ帳ですが、もしその高さが1m近くあったら…? 座れる。テーブルとしてもいいかもしれない? 篠原紙工のディレクターのひとり、吉永久美子。前職の印刷会社を離れ、2年前に篠原紙工に入社。今回は紙好きの彼女が手がけた「はがせるテーブル」をご紹介します。
Twitter上で誰かのお悩みやつぶやきに全国の印刷屋さんがプロダクトでこたえる「大喜利印刷」という篠原紙工も参加しているプロジェクトがあります。吉永は、「このコースターはテーブルが濡れる。」という、ある方のお悩みを念頭に、ある日、篠原紙工のメンバーと喫茶店で冷たい物を飲んでいたところ、その喫茶店ではコースターがなく、直にグラスがテーブルに置かれていました。案の定、結露でテーブルは水浸し。「このままテーブルの表面がペリッと剥がせたらいいのにね。」と仲間と話しながら、このお悩みにこたえられる可能性を感じ、本格的にこのお題への取り組みが始まりました。篠原紙工の中ではこれを「濡れてもOKなテーブル」と解釈し、紙を何枚も重ね、天のり加工を施し、はがせるテーブルを作りました。このはがせるテーブルは、ある紙会社の倉庫に眠っていた廃棄寸前のデッドストックを使用して作り、高さは台座を含め約85cmにのぼります。
美しい紙たちをそのままの姿で生かしたい
前職の印刷会社で吉永は主に営業担当でしたが、キャリアを積む中で紙に全く触れることのないPC作業のみの部署に所属していたこともありました。その時に勤務先の倉庫に眠るたくさんの使われない紙、廃材と言うには値しないくらい美しい紙たちを見て、「紙を紙そのままで生かしてあげたい。」そして自分はやっぱり紙に触れていたい、紙を通してお客さんとコミュニケーションをする仕事がしたいと改めて思い直しました。紙は折る、切る、包む、書ける、箱にもなる、取っ手をつければ袋になる。そして、ペラ1枚の紙からいろんな身近なものに変化し、柔軟性があるところがとても魅力。と彼女は語ります。しかし、あまりにも身近な素材なだけに紙なのだから安いのでは?と思われてしまうことも多々あり、それに違和感を覚えることもありました。紙にはたくさんの種類があり、感触も違い、紙によって印刷の見え方も変わる。それが面白いところでもあるのです。吉永は紙の魅力を普及させるため「紙塾」という活動も個人で行なっています。紙はまだまだ人をあっと驚かすことができるし、何よりワクワク感を生み出せる力がある素材だと信じています。
大喜利印刷との出会いはそんな吉永の紙に対する想いを形にできる絶好のチャンスでした。「紙の廃材を使ってプロダクトを生み出す、紙の可能性を掘り下げる」というコンセプトのもと、過去にあの紙の倉庫で感じた自分の気持ちが重なり合いこの「はがせるテーブル」の制作には特別な想いで取り組みました。
思いがけないオーダー
このはがせるテーブルはフルオーダーメイド。お客さんの要望や、テーブルの用途を伺い、細やかな双方のコミュニケーションが必要になります。このやりとりの中で、相手が驚く様子や、喜んでいる姿を見ることも仕事のやりがいの一つ。最近になって少しずつ問い合わせが増え、会社の記念品として、展示用の台として、驚いたことに、個人宅で使いたいという沖縄在住の方もいらっしゃいました。みなさんのそれぞれの用途を私たちが知ることで逆に、なるほど、と思わされることもあります。大きな紙の束に思いっきり落書きをする、絵をかく、メモを取る、アイデアを書き出す、頭の中もスッキリしそうです。そしてとても贅沢な紙の使い方。しかし、果たして、これは「テーブル」という名前でいいのだろうか…?少しずつより進化させた商品にしてゆきたいと思います。
担当 : 吉永久美子
「紙の可能性をもっと追求したい」その想いで前職を離れましたが、それが一つ形になった気がしています。篠原紙工ならではの「やってみた」一例です。まだまだ使い方は無限大だと思うので、興味のある方はぜひご相談ください。ワクワクするものを一緒に作っていきましょう!