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製本立会いのライブ感から生まれた本
その場のエネルギーを伝える授業
妖艶な雰囲気を醸し出しているプラスチックボトルたち。写真家 金子親一さんの写真集「NUDIST」。装幀、アートディレクションは永井裕明さん。全体が黒で引き締まっていて、大きさもB4と存在感のある本です。
この装幀の特徴でもある黒い寒冷紗を本の背に貼る作業の際、永井さんご自身が確認して微調整をしながら作業を進めてもらいたいとの要望があり、加えて自分の受け持つ大学のゼミの生徒さん達も連れてきたいとのことでした。デジタルに慣れ親しんでいる学生が多い中、デザイナーの意志を制作現場の人に直接伝え、その場で調整しながらものが形になっていく「ライブ感」の良さを学生に伝えたいという思いからでした。リアルで人と人とのコミュニケーションから生じる、想定外の面白さは制作現場でも多々あることなので私たちとしても嬉しい提案でした。
手を動かす者の心にスッと入り込む
この案件のメイン制作担当は新島。永井さんが立会いに来られた際、印象深かったのは手を動かす作り手と同じ目線で、どうやったらより良いものができるだろうか?と一緒に考えてくれる姿勢が強かったこと。今までにも一緒に制作現場の仕事をしていたかのような近い距離感で接してくれることにすごく親近感が湧きました。
黒い寒冷紗を貼り付けるのは、プラスチックボトルのヌード感を出し、女性の薄いストッキングのような色気を想像させるため。立会いで確認しながら進めると永井さんの方から「表紙と見返しの貼り付けも黒い糊でやれば紙の白さが目立たなくなるんじゃない?」と提案がありました。永井さんの柔軟なアイデアに触発され、新島がその場で試みたところ、仕上がりも美しく、その方向性で進めることにしました。2人は周りから見ても小気味よいキャッチボールをしながら本を制作していました。
リアルなコミュニケーションがもたらすもの
案件の進捗をメールだけで進める場合、束見本を先方に送り、再度修正など加え幾度とやりとりをすることの方が大半なのですが、今回のように直接現場に来て、一緒に考え、作ることはお互い納得しながらタイムラグなくベストなものに仕上げる絶好の機会だと改めて感じました。
私たちとしても束見本を送って後日メールで「すごく良い仕上がりです!めちゃくちゃ嬉しいです!」と送られるよりも、その場で「この仕上がり、最高です!」と言われると喜びの伝わり方が違います。新島は4年前の自分を振り返り、「思えばあの時はまだまだ未熟で、永井さんの声に十分な受け答えができてなかったと思うけど、永井さんの人としての魅力に引き込まれて、この人の期待に応えたい、という気持ちは強かった。」と語っていました。これもリアルなコミュニケーショだからこそ生じた良いエネルギーの循環なのでしょう。
担当 : 新島龍彦
強い存在感のある写真・デザインの本でしたが、私にとっては永井さんとの立会いでのやりとりがとても印象深く残っている制作でした。私自身、立会いをする側、迎える側にもなるのですが、同じ目線で一緒に作ることの喜びをどちらの立場であっても、いつも忘れずに楽しんでゆきたいです。