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失敗とは?
コロナで人々が消えた街の様子を写した写真集「Night Order」
デザインや製本仕様の打ち合わせの際、篠原紙工の本棚に並んでいた背表紙の箔が剥がれかかった本がヒントとなり、この写真集の仕様は決まりました。
その背表紙の箔が剥がれかかった本…というのは、実は失敗した試作の産物。金属の質感を出そうと、糊で綴じた本の背表紙部分に箔フィルム加工をする実験をしていたのですが、うまく定着せず、その時は諦めてしまいました。しかし、その失敗作をみたスタッフのある一人が箔の不均一感も悪くないのでは?と思い、そっと本棚に保管しておいたのです。
コロナ以降、賑わう街から人の気配は消え、多くの飲食店は営業を停止し、今までにない静けさと、これまで当たり前と思っていたことが簡単に崩れ始める様子を製本で表現するのに何が良いか? アイデア出しをしている際に目に留まったのが実験の際には失敗とみなされたこの本。
「失敗という言葉はない」というフレーズがピタリと当てはまるようなストーリー。
篠原はよく「何かを実験する時に、こうすると、こうなるのか~。小さな発見だな、くらいの感覚で受け止めて、それを積み重ねると、予想外の新しい捉え方や物が生まれてくるのだと思うよ。」と言います。
思い描いていた目的が果たせなくとも、「失敗」と決めつけずに結果を次の何かに繋げる材料としてあたためておけばいつか役に立つ時が来るかもしれない。このなかなか素敵な思考は物作りの世界においてだけでなく、日常生活の考え方としてもぜひ取り入れたいものです。
担当 : 篠原慶丞
本の内容を製本の装丁や加工で表現する事ができ、なおかつチャレンジングな技術をふんだんに使った書籍という物質的な特別感もそうですが、それ以上に、この装丁が決まるまでのチーム内の意見の交わし合い、出来上がった時の喜びの共感など、この本を作るために集まったチームとの連帯感も私にとっても思い出深い仕事です。