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自分の勤める製本会社で自分の本を量産する
篠原紙工との出会い
本を開くと垂直に佇むポップアップ。それにライトを照らすと影が物語を作り出す仕掛けになっているモーションシルエット。
これは篠原紙工の社員でもあり、造本家の新島龍彦が学生時代の友人と作った本。イベントなどに参加する度に多くの反響があり、一瞬で人の心を動かすことができる自分たちの本をたくさんの人に届けたいと思うようになったことから量産することを考え始め、そんな中、巡り巡って出会ったのが篠原紙工でした。
オリジナルは手製本、それを量産する上で譲れないこと
その後、自分の本の量産とは関係なく新島は篠原紙工の社員となり通常の仕事もしていたのですが、モーションシルエットの知名度は徐々に上がり、出版の誘いも多々ありました。しかし、量産する本であっても手製本で作っていたオリジナルの良さをしっかりと残すことを優先すると予算的にも仕様でもベストな方法が見出せず、出版社からの進展もないまま出版には至りませんでした。ところが2015年に世界で最も美しい本コンクールで銅賞を受賞した後にグラフィック社さんから本格的な出版の声がかかり、ついに動き始めました。
モーションシルエットという本自体の存在価値を考えた時、手製本にこだわって少部数生産になるよりも、たくさんの感動を届けることがこの本の生き方としては一番大事。だから量産はしたい、でも妥協はしたくない、この想いを一緒に考えて形にするまでを導いてくれたのが作者自身の働く篠原紙工でした。
社長と社員の試行錯誤と思わぬ気づき
出版が決まったその日からオリジナルである手製本の良さを残しつつ、機械化することをテーマに作者新島と篠原社長とで試行錯誤の日々が始まりました。モーションシルエットは影が主役の本。通常の飛び出す絵本の仕掛けと違い、ポップアップの部分を垂直に立たせることが重要でした。そしてライトを使って楽しむ本なので読者が手で本文を押さえなくてもいいように本が180度フラットに開くことが条件。利益のことはひとまず考えずに可能性だけを掘り出してベストな仕様を考えました。
量産のプロに相談すると無理だと思い込んでいた加工が実は機械でも可能であったり、思いがけないことがたくさん起こりました。それだけでなく、生産工程の中でどうしてもひっかかる部分が実は自分の本や作品に対する強いこだわりであることにも気づき、造本家としての発見も多かったと新島は言っています。そして、自分の本を自分の会社で生産する。この貴重な経験から社員として量産力を考えるようになったと。量産するにはどうしたらベストか?という問いから始まる仕事。そして人の気持ちに応える会社でありたいと。
制作側は機械の持っているスペックだけで「できる・できない」という二者択一の選択で仕事を狭めてしまう傾向があります。少しの工夫と知恵を絞れば機械も使い方次第で制作の幅は広がります。ただし、そこまでしてもやってみようと思うモチベーションの一つとして、お客さまの「想い」がエッセンスになるのかもしれませんね。
担当 : 新島龍彦
本を量産することで困っている人はたくさんいるはず。本に対して強い願いを持った人たちの想いを実現する側に立って、これからも本を作り続けたいです。