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届く人には届く、私たちの精妙な仕事
話題の黒い寒冷紗で包まれている本
19世紀末から20世紀にかけてオランダで活躍したメスキータという画家をご存知でしょうか?篠原紙工では2019年に東京ステーションギャラリーでスタートし、現在全国で巡回中のメスキータ展の展示図録の製本を担当させていただきました。この装丁はブックデザインの中で話題になっており、篠原紙工に打ち合わせに来たデザイナーの方々がこの本を見つけると「これは篠原さんのところで作ったのですね、」と始まり、そこから会話が盛り上がります。
この案件は直接デザイナーと関わることはなく、印刷会社を通してのお仕事。想像力を使いながら相手がどんな本を作りたいのか、仕様書を読み解くところから始まりました。一番特徴的なのは本の表紙を全面寒冷紗で貼り付けていること。仕様書の段階でもこれはさすがに無理かも…と懸念したのですが、手加工を専門とする社員に相談すると、素早い検証により「できます」という返事。そして数万部を全て手貼りで制作しました。
全部数を手貼りというと驚かれるかもしれませんが仕事を担当した社員は「仕上がりがかっこいい本だったので作っていて楽しかった。」と話していました。制作中はどの本に対しても気持ちを込めて丁寧に取り組んでいますが、やはり美しい装丁の本は手を動かす側のモチベーションも変わってきます。
思わぬところからの嬉しい声
間接的な仕事のため、装丁デザインの方からの喜びや感想の声を直接聞くことはないだろうと思っていたのですが、全てが終わった後に予期せぬところから嬉しい声をいただきました。展示会場で図録を購入し、本文の折りの精度に感動した方が直接、篠原紙工にこの感動を伝えたいと(奥付に製本会社名が載ってなかったので)ショップ店員さんに製本会社を尋ね、わざわざ連絡先を調べて電話をかけてくださったのです。
この図録では一つの絵柄が2ページにわたり印刷されているものが多く、見開きの部分で絵柄がずれると見た目に醜い本になってしまいます。そのため本文の紙を折る精度に細心の注意を払いました。その意図が伝わったことが私たちにとってはすごく嬉しかったのです。本当にありがたいお電話でした。
製本する側の美しい本とは
私たちの考える美しい本とは本を手に取る人に小さな違和感を感じさせない、ということが一つあります。それは先にも述べたように、見開きの絵柄ズレや本の開き具合、または本のコンセプトに適した紙の質感など、細かいところはたくさんあります。
本を手に取って何も違和感なく本の内容に集中できる、見えない部分の精度や美しさが伝わる人にはきちんと届いているということを実感できた本でした。
担当 : 篠原慶丞
納品後に思いもかけない様々な方からの高い評価をきき、とても嬉しかったです。