オハラカズヤ「安定」

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僕が版画を彫るようになった理由

篠原紙工のディレクターの1人、オハラカズヤの版画作品集『安定』。
若手のクリエイターにフォーカスするSHIBUYA TSUTAYAのプライベートレーベル「NEST PUBLISHING」 Scramble Book というプロジェクトの参加に声をかけられ、この版画集を制作することになりました。今回は、本についてではなく…小原が「オハラカズヤ」として活動をするようになったストーリーをご紹介します。

結婚式で40人分の似顔絵を彫る

彼が趣味で版画を彫るようになったきっかけは、自身の結婚式に参列してくれたゲストへお礼の似顔絵メッセージカードを贈ったことから。もともとイラストを描くことに憧れはあったものの、美しい線が描けないことにコンプレックスを抱えていました。でも版画なら自分の線を消すことができ、自分らしく表現ができると感じ、結婚式へ来てくれたゲスト40人の似顔絵を彫ることに挑戦。全てを完成させた時は心から達成感があったのと同時に、似顔絵ではなく自分自身の想像するモチーフで版画をやってみたいという次の意欲へと変わっていきました。結婚式での似顔絵メッセージの評判が良かったことも後押しし、それ以降、時間を見つけては黙々と彫るという彼の版画ライフワークが始まりました。

版画でストレスエネルギーの調整

実は、もう一つ、彼が版画を趣味として長く続けることになった大きな要因があります。彼は本が好きで、篠原紙工に入社する前も本に携わる仕事を10年近くしていました。ところが、社内での人間関係の不調和とそれに比例するかのように仕事もうまくいかず、自身の出来る限りの努力や改善をしても状況が変わらないという年月が長く続きました。そのことが彼を追い立てるかのように版画の世界へのめり込ませていきました。

小原「今思えば、版画がそういう日頃のストレスの発散方法であり、仕事環境に対する違和感や自分への不甲斐なさがエネルギーになって彫っていたと思います。」
そして、耐えるところまで耐え、次に移ろうと決意して出会ったのが篠原紙工。

作品を表に出して広がった世界

彼の版画が今こうして私たちの周りで周知されるようになったのは、ひょんなことから篠原紙工で彼の版画作品を見た他のメンバーが「すごい!小原さん、すごい才能じゃないですか!」と一目で気に入ったことがきっかけでした。彼が「木版画家」というもうひとつの顔があると知られた翌日にはすでに社内全体に知れ渡っていました。彼の作風に惚れこんだメンバーは彼の個展を企画したり、彼のこれまで彫り貯めてきた作品を1枚の大判紙に印刷したりと人目に触れるようにしていきました。そこから小原個人でもInstagramを始め、徐々に彼の作品は知られるようになっていきました。小原もまさか自分の作品が篠原紙工で受け入れられるとは思っておらず、驚きとそして何より大きな喜びがあったようです。

小原「環境が自分の版画にもすごく影響しています。前職の時に彫った作品と、篠原紙工に入社して以降の作品とでは違います。篠原紙工と出会って以降の作品は陽気さが出るようになりました。自分では大した才能ではないと思っていたけれど、篠原紙工のメンバーや篠原紙工を通じて知り合った方達に認めてもらえたこと、僕の個性を生かしてくれる人、仲間がいることは嬉しいです。」

オハラカズヤ「安定」 / 2019
製本ディレクター : 小原一哉

サイズ : W128×H182
表紙 : マシュマロCoc 200kg
本文 : アヴィオンハイホワイト 135kg
仕様 : PUR製本 
頁数 : 28頁
数量 : 200部

担当 : 小原一哉

担当 : 小原一哉

篠原紙工に入社していなければ、絶対に私の作品集が出版される事はなかったと思います。私の版画を面白がってくれる素敵な仲間に出会えたからこそ生まれた1冊です。その出会いにただただ感謝しています。

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