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この人に仕事を頼みたい
誰と一緒に本を作るか
「加工の現場から日々出てくるシールの廃材を撮りためていて、その写真集をつくりたいのだけど、その際のディレクションは小原さんに頼めないかな?」お客さまはいつもお世話になっている箔押し会社さん。写真集の内容を見ると、何が写っているのか…と言わんばかりの不思議な被写体が箔押し工場に鎮座しています。海深くに生息する深海魚みたいな様子から、タイトルはそのまま「深海魚」とすでに決まっていました。
小原のディレクションは自らのアイデアを提案するというよりはお客さんに歩み寄り要望を丁寧にサポートするやり方。しかし、今回は彼のユニークな着眼点と独特な世界観があることからディレクションの指名を頂いたので彼自身がこの写真作品に対して感じたことを製本の中に落とし込むことになりました。
大人が集まって久々の大興奮
暗い深海に住む謎の生き物たちの生々しさ、魚は軟体動物のようにクネクネしたイメージから表紙はナシ。本文の紙は柔らかくペラペラとした光沢のある紙を使用。あえてめくりにくい、扱いづらい素材が先方の方で既に選ばれていました。小原からのアイデアは、深海魚は光を放つ生き物ということから蓄光塗料を使って本の4辺を光らせることはできないだろうか?と提案。「できる、できない」は関係なくすぐに実験が始まりました。
無線綴じ機に使う糊と蓄光塗料の相性が悪い、機械に通すと有毒ガスが出る可能性がある。などの困難を乗り越え、ついに完成した蓄光塗料のついた本が暗闇の中、光りを放った瞬間の喜びが今でも忘れられない。いい大人が純粋な心で興奮したのは本当に久々でした。
プロダクトとして広がるアイデア
ディレクションした小原は「この制作がきっかけで、製本会社側のアイデアを提案することがお客さんの作りたい本の世界観を崩すことには直結しないということ、もっと自由に自分のアイデアを話してみることの楽しさに気づきました。」と話していました。
お客さんの要望を重視して言われるままに作ることがベストな時もありますが、打ち合わせの段階で様々なアイデアを出し合う方が、想像していたこと以上の方法にたどり着くことが篠原紙工では多々あります。1+1=3のような具合に。
ページがめくりにくい紙を選んだり、蓄光塗料を使ったり、この写真集「深海魚」は特に本来の「本」の役目を考えた時はありえない選択ばかりかもしれません。しかし本を一つのプロダクトと考え、本の内容を形や紙の感触とリンクさせて本全体を作りあげるやり方もこれからの「本」の一つの在り方かなと考えています。
担当 : 小原一哉
深海魚を通して、お客様と一緒にモノを作り上げていく事の楽しさ、喜びを味わうことが出来ました。現在、この経験は私の営業活動における大きな支えとなっています。